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映画感想:人間失格 - 太宰治と3人の女たち

見てまいりました、話題の太宰治映画。
ツイッターのお知り合い3人で見に行ったのですが、まあその内容の濃い事。当日は封切一カ月近いというのに、何と未だに劇場が満席で一回見逃しました。大人気ですね。若い人達もけっこ言いましたし。

てなわけで、あまりにも仕事が暇だったので今回は珍しく感想など書いてみようかと思います。
このカテゴリ文学だけど文学じゃなかった感が凄いですね、更新もほぼ一年ぶり…

あらすじ:売れっ子作家太宰治が、静子と不倫を始めてその日記の内容をもとに『斜陽』『ヴィヨンの妻』を執筆し、肺病に悩まされながらも『人間失格』を執筆、最後富栄と入水自殺するまでを描く。

主要キャスト:
 太宰治:小栗旬
 津島美知子:宮沢りえ
 太田静子 : 沢尻エリカ
 山崎富栄 : 二階堂ふみ

以下、感想の列挙です。ネタバレありますんで注意してね!




・太宰の部屋の左脇に中也の『在りし日の歌』があった。ほんの一瞬だった上に『在』しか見えなかったがわかる人にはわかるだろう。ぜひ探してみてほしい。ちなみに中也は本作には出てきません。
・安吾は出てくる。『堕落論』を書き終わって次作に行き詰っている模様。太宰の『斜陽』がブイブイ言ってる中で、「『堕落論』以後、いまいちだろう」みたいな太宰のセリフに俯く安吾が切ない。
・太田静子の描き方が滅茶苦茶”愛と革命に生きる女”みたいな感じになってるがあまりにも清々し過ぎてどうしようもない感じになっている。愛されない妻より、愛される愛人でいたい、というセリフ、すごく強い。
・「死ぬほど本気の恋、する?」という謳い文句で、静子・富栄の人生をあっさり巻き込んでいく太宰、あまりにも誑し男。
・そんな誑しの妻をしなきゃならない美知子マジかわいそう。でも太宰の遺書に「私は最もあなたのことを愛していました」って書かれてるのをみて晴れやかな気分で洗濯物を干してるラストシーン幸せそうだな
・性描写はありますがR15の範囲なのでぬるめです。でも太宰の人の手つきとかキスの仕方が大変えろっちぃのでまあR15なんだろうなという感じはある。あとトップレスにもなるので…
・三島が直接太宰に文句言いに来るシーンがあるんだけど三島が若かりし頃すぎて何とも言えない。でも太宰に「お前、俺のこと好きなんだろ」って言われたのは三島的に滅茶苦茶腹が立つ一言だろうなとは思った。(三島の太宰嫌いは割と有名である。でも三島はさらっと「好きではないですね」っていう映像があるくらいだから、あんなに激しい感じではないと思うんだが…そこは映画の演出なのかな)

・佐倉、太宰の女性関係を咎めてるから潔癖かと思ったら富栄を襲ってる当たり、なかなか抜け目がないなこの編集者(笑)

・「書いてください!人間失格を!」の後の、風車が回るのと、たくさんの子供が変な笑みで笑う映像美めっちゃすごい。『人間失格』の序盤で描かれる葉造の、子供のころからの貼り付けた笑み、というのを全力で表現しようとしたのかなと思う。BGMが悲壮感あふれる感じじゃなくて、祭りの楽しそうな太鼓囃子というのも、『人間失格』の”道化”を表現するには適切な映像描写だったのではないだろうか、と思う。ここは本当よく思いついたな…と。

・富栄がガチメンヘラに身を落として最後に太宰と離れないようにしっかり結んで入水自殺を図るというのが「えぇ」って感じだった。直前で「いや生きよう」と言い出した直後に死ぬことに同意する太宰も「えぇ」だけど。そもそも富栄の描き方が全力でメンヘラに振り切れてる。

・そしてそのあと太宰が「はっ」って言って目が覚めてるけど、あれ要するに「自分は自殺するつもりなかったんだよ」的な表現なんだろう。直前の会話で「生きよう」とか言ってる当たりでそれが感じられる。

・太宰の映像化作品これで見たの3本目だけどこれが一番エンターテイメント性があるかも。若者に受けそうな一方、太宰の女性関係に比重が置かれているので、ガチな人々からは怒られそうな内容だった。これまでの3本場自殺直前の描写とかなかったので、最後の入水のシーンが富栄のせいにしてる話は初めて見た。(これについては後述)
ちなみにかつて私が見た残りの二本は地上波版『太宰治物語』、もう一つが生田斗真の演じる『太宰治』である。前者はちょっと文学より、後者はなんか太宰の映画というより生田斗真のセンチメンタル映画って感じで、いずれも最期については、二人合意の上で入水、という形だったと記憶している。

・今回一番心に来たシーン:登美子が子供と一緒に墨まみれになって遊ぶところ
→美知子は少し前のシーンで、太宰に「壊しなさい、私たちを」と宣言していて、あくまで作家の妻として、太宰の女癖を見て見ぬふりをすることを決め込んでいる。
それが、祭りの日に女と連れ添う太宰を子供と目撃してしまったことに対して、「お父さんはお仕事だから」とあえて目をそらしてその場を去る、という態度をとる。
後日、子供と何気なく生活しているときに、長女が「お仕事したの。お姉ちゃんと一緒にお片付けしたんだよ」という一言を言う。
(特に何も語られてはいないが、この一言で、美知子は静子か富栄が家に勝手に来て、長女と遊んだと想像したのではないだろうか)
この長女の一言で、美知子は限界に達して泣いてしまう。その一方、少し離れたところで遊んでいた長男が、直後に長男が墨を零してしまう。長女はこの墨で遊ぶ弟をいさめようとするが、その場で墨に汚れ真っ黒になってしまう。それに気づいて泣いていた美知子は、二人を怒るでもなく、墨を片付けようとするでもなく、子供と一緒になって墨で遊び始める。
一見、墨をこぼすシーンは何の脈絡もなく出てくるが、この文脈においては”太宰の作家としての在り方”の暗喩なのだろうと思う。
美知子は何故、突然泣きながら子供と墨で遊び始めたのか。自棄になったのだ。美知子は太宰に作品のために家庭を「壊しなさい」とけしかけてはいるが、少なからず太宰を思う気持ちがあって、家庭・夫を捨てきれずにいる。そしてそんな彼女の家に、作家にとって大事な「墨」という存在が、家庭の中に零れ出し、登美子や子供たちを汚していく。そんな暗喩が見える。
ここは非常にうまい演出だと思った。泣き笑いで墨にまみれる子に美知子にしんどすぎて思わずため息。役者さんの演技もすごく上手い…
(宮沢りえという役者が大御所女優であることをここの演技で知った)

・総じて、”映画”としては強い一作なのではないだろうか。(”文豪ドキュメンタリー”としては後述)
私は映画の技術的なことははまったくわからない上に、キャストもあまり知らない・興味ない状態で見に行ったんだけど、それでも画面が力強い一作だとは感じた。何より、一回見ただけで脳裏に焼き付くような鮮烈な映像が何枚もある、というのは映画としては演出に成功した部類なのではないかと思う。
ただし、静寂よりも賑やかさ・鮮やかな色彩が目に付くタイプの作品であって、「文豪・太宰治」を描く作品としての効果はどうなんかな、というのが正直なところ。(時代が昭和なので多少なりとも、大正・明治を描くよりはマシだったかもしれない) この映画から受ける太宰の印象、完全に女たらし>>文豪なんだよなあ。
内容が「ヤバすぎる恋」というロマンス・また取り上げた時代も後半が焦点だったあたり、享楽的な部分だけ取り出してきた感がすごい。

・その他
史実系映画なんだからちゃんとエンディングで役名出して欲しかった、と思ったのは私だけだろうか。俳優の名前だけでは、誰が誰を演じていたのかわからない、、と思いながら見ていた。これは、人物名が重複して見づらくなるのを避けてのことだろうか。
ところで劇中にオダサクっていました? どこにいたのか全然わからなかった…ルパン(?)で飲んでるのは安吾だけだし、オダサク逝去後の話がメインという理解でいいのだろうか?わからん。


と、ここまでが私が純粋に映画を見て個人的に感じた感想です。
以下は一緒に行った友人から聞いた話。(史実より)

・編集者/佐倉は実在しない人物で、太宰に係った編集者をまとめて一人の概念にしている模様
・「子供がいるのにそんなことできるわけがない」というのは、編集者の言葉ではなくて、志賀直哉の言葉では。(そこでお前が言うのか、的な印象があったらしい)
・実際の太田静子はもうちょっと世間知らずな感じ。斜陽に共同者として名前を入れようとか言いだすことはない
・美知子は太宰が不倫してから、太宰を一歩も家に入れようとしないくらい怒っていたので、そもそも太宰の愛を望もうとしてる美知子を描写されると違和感がある
・富栄が太宰の心中を促したというのは俗説を過大にした説であって、これによって自殺当時富栄が大バッシングを受けたことを考えると、この作品の結末は俗説の焼き直しであって、”史実”と銘打つには遠い。(富栄の家族は太宰との心中のバッシングに心を痛めて、富栄の日記を公開するなどした、らしい)

→この辺の内容を踏まえて見ると、富栄が太宰を死に導いた、という結末の描き方を、文豪にあまり関心がない中高生でも見そうな現代映画でしてしまった罪深さをうかがい知ることができますね。。
 私も何も知らないで結末に関して「富栄の家族に怒られないのかなこれ…」と思いながら見てたんですが、こういった経緯があるならなおさらのような気もします。
 ※文学好きは何かと派生作品と解釈違いを起こし勝ちなのでそういう時は原書に帰りましょう。

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