文アル人気でTwitter上で知り合った方から、文学部って何やってるの?とご質問をいただきましたので、大学時代文学研究にいそしんだ人間がまとめて解説をしてみようと思います。
前もって言っておくと私の所属していた学科は近年統廃合によって学科が吸収合併されて無くなりました。
近年の大学の理系重用風潮により、徐々に文学部文学科は日本の大学から姿を消しつつありますが、それでもまだ一部の大学では文学の研究ができます。
本文は、その際のご参考までにどうぞ。
あとここでご紹介する文学研究はあくまで私の所属した学科と教授のお話なので、
大学や所属する教授によって研究の内容に差異があることは、あらかじめご了承ください。
また文学研究に触れるきっかけを、と書く内容ですのでガチで大学・大学院で文学を研究していた方向けにはゆるい内容です。現在研究している方は、他大の研究手法の一つのご参考としてください。
研究対象は明治・大正あたりの日本を想定しています。
海外文学・江戸以前の文学と、現代文学は対象外です。
(人伝に聞いている限りだと江戸以前は下記の内容に加えて翻刻(=くずし字を解読する過程)が入り、海外文学だと翻訳が入るイメージがあります。江戸以前だと写本がたくさんあるものもありますので、どの写本を使うのかによっても研究の内容が変わったりするらしいです)
あわよくばこれを読んだ文学に関心のある学生さんが、ご自身が文学研究に向いているのか銅貨を考える一助になれば幸いです。大学はお金がかかるところなのでやりたいことをあらかじめ知っておくに越したことはないと思います。せっかくやるからにはある程度中身を知っておいたほうがいいですよね。
〇レファレンス
始めに文学研究の導入・先行研究検索に役立つサイトをご紹介します。
〇CiNii
http://ci.nii.ac.jp/…サイニーと読みます。
学生時代論文を探すときはよくここを利用していた、という人も多いのでは、というくらいメジャーな論文検索サイトです。私もよく利用していました。
「すべて」を選択して検索すると、関連するワードを含む論文が検索できます。
「CiNiiに本文あり」を検索すると、PDFで本文がある論文を検索できます。
後述する先行研究は、こちらで大体検索していました。もっとほしいなという場合は、論文内の参考文献を更にたどっていくことで芋づる式に情報を得られます。
文アルにハマった方は、試しに「CiNiiに本文あり」で推しの著作名や推しの名前を検索してみましょう。(笑)
文豪はたいてい有名な人が多いので先行研究も多くあったりして楽しいです。
CiNii上に本文がないものは、大学図書館の蔵書であったりします。
大学生の場合は大学の図書館の受付で依頼すればたいてい取り寄せてもらえます。
〇国立国会図書館デジタルコレクション
http://dl.ndl.go.jp/明治・大正期の刊行物を検索・閲覧できます。
詳細検索で「インターネット公開」にチェックを入れると、ネット上で閲覧可能な資料のみが出てきます。
ネットで見られる内容としてはかなり強い印象です。歴史資料もあるので歴史クラスタ向けにも重宝しますね。
「国立国会図書館限定」とあるものは、検索のみ可能な内容です。実際に国立国会図書館に行くことで見られます。
〇「日本近代文学」総目次
http://amjls.web.fc2.com/mkj_indx.htmデータベースではないですが、雑誌「日本近代文学」学会の会報目録です。
1964年以降の研究論文の電子データがDLできます。
文学の論文を身近に触れるきっかけとしていいかも。文アル文豪に関する研究もいっぱいされておりまっせ。
〇文壇論 資料目録
http://www.jliterature.com/bundan.htmこちらはデータベースではないですが、文壇について論じた内容の目録です。
当時の文壇のアレコレが知りたいときに便利かもしれません。
上記で本文が電子版で載ってないものは、公共図書館を通じてお取り寄せ依頼する形となります。
地域の公共図書館にコピー(複写)の依頼をすると有料で取り寄せてくれますので、必要であれば依頼をしましょう。
※複写依頼詳細については、お近くの公共図書館にご確認ください。
〇作品研究について
さて、文学部文学科の研究内容です。
文学研究を行う手順は、以下の3つです。
1、原作を読んで読書感想文を書く
2、作品情報を調査する
3、考察する
1、原作を読んで読書感想文を書く
「は?文学研究って感想から入ってるの?それって個人の偏見バリバリじゃない?研究に持ち込んじゃダメな奴じゃない?」と思った方、大正解です。
しかし文学の本質は、結局のところ作品そのものが読者にどう思われるか、それに尽きます。名作は誰かが評価したから名作である、のではなく、およそ読者に何らかの共感を与えそれが広く伝わったからこそ名作なのです。それこそ時代に耐えうる作品は、現代人の我々が読んでも何らかの共感を得られるはずです。そして、どの部分に共感を得たのかは、その作品の普遍性を考えるうえではポイントとなりえます。
故に研究以前に、その本を楽しみ、嚙みしめるという意味では、読後の感想は実は重要なのです。
これは研究を始めてしまうと知識にかぶれて忘れがちになるものですので、作品を読んだらなるべく早めに書き留めておくのが良いと思われます。
勿論研究に入ったら論旨は感想に引きずられすぎないように、注意が必要です。
2、作品情報を調査する
次に調査の過程ですが、これは3つのフェーズがあります。
①書誌情報
…その作品の書誌情報についてをまとめます。
例えば書店に並ぶ文豪たちの本には、必ず末尾に底本が記載され、どの版の書籍から文章を引いてきたかが書いてあります。
これは調べていくと最終的に新聞だったり、全集だったり、同人誌の寄稿だったりに行きつきます。研究の際は、このどこが初出であり、その後何回改稿されたか、にも注目しその情報をほんの情報としてまとめます。
例えば、新聞小説で連載されていた小説と、同人誌にまとめた内容では、対象となる読者も単行本化した際の修正箇所も異なります。
新聞小説として書いた内容が単行本時には異なる表記や収録の内容であることもありますし、単行本化された内容でも版ごとによって加筆や修正があったりします。
修正や加筆は「なぜそのような内容となる必要があったのか」が研究考察の要素の一つともなりえるため、一度目を通さなくてはならないポイントです。
②語彙調査
…作品中に存在する語彙や慣用句で不明なものがある場合に調べます。作品を読んでいる間にピックアップするのが手っ取り早いです。作中に出てきた意味の分からない単語や慣用句、小道具などをネットや図鑑や辞書を使って調べます。
調べていくと意外なところに作品の展開のカギがあったりするので、この過程も必要なもののうちの一つです。
これを突き詰めると文学研究ではなく歴史に足を突っ込みますが、文学の場合は発表当時に読み解ける内容を理解できればOKです。浄瑠璃が出てきたからと言って実際に浄瑠璃を見に行く必要はありません。(笑・そういうのも関心があればやってみると楽しいですが)
③先行研究
…その作品に関して先人が研究したことをまとめる工程です。大抵の研究は雑誌に載っています。(有名なのだと『解釈と鑑賞』とか『國文學』とか/2016年に休刊となりましたが…)
上記レファレンスに記載のサイト等を使用して論文を検索し、その内容を読んでどういった研究が行われてきたのかをまとめます。
有名な文豪の作品ですと何百という先行研究の論文が出てくることもありますが、そういう論文たちもある程度の語りの切り口があるので、その論調ごとに内容をまとめます。
先行研究が少なすぎる場合は最初に当たった論文の参考文献をたどっていくことで芋づる式に情報を得ることができます。
なおここで深みにハマると、発表当時の作家自身の当時の生活や事件などに触れることがあります。多くの論文は、作者自身の体験から影響を受けたという内容で研究をしているものが多く、特に発表当時と時代が近いものほどその風潮があります。
作家論を見たい場合は、そのあたりの論文を見てみると楽しいと思います。
3、考察する
研究と銘打たなければ2の調査の部分だけで十分美味しいのですが、そこで終わる場合は調べ学習となります。研究である以上は、先行研究を受けて考えた、何らかのオリジナリティが必要です。つまりは先行研究とかぶらないように、ある程度の論旨を持った内容を書かねばなりません。
そこで生きるのが初見の感想です。
・なぜこの部分はこのような書き方をしているのか
・この展開はやや唐突な印象があるがなぜこうなったのか
・このシーンでこの小道具を提示する理由は何か
・この部分の登場人物の配置には何か意味があるのか
など、なぜかと気になったところを列挙し、考察しその答えを論文として書いていきます。
あるいは、2の調査を生かす方法もあります。先行研究で気になったところを列挙し
・この論文にはこのような問題点がある
・この論文のこの部分にはさらなる考察の余地がある
等を考えてその答えを自分で考えて論文として書きます。
これらは、ある程度の論理的展開が求められるところが難しいところです。理系の学問では、実験という大きな後ろ盾がありますが、文学は形がなく検証ができない分野ですのでうまく先行研究や調査の内容を用いて論じないと、感想の域を出ません。かといって先行研究と全く同じことを書いても新規性がなく、論文としての体をなしません。(これは文学以外の学問もそうではありますが)そのバランスをうまくとりながら、論文を執筆していくことになります。
余談ですが私の所属していた学科の研究では、作品と作者を別物ととらえる研究手法でした。
作者の経験が作品に影響を及ぼすのは当然なので、一緒くたに語る意味はあまりないという前提の教えだったかと記憶しています。なので実はあまり作家論や作家の文壇での立ち位置的なお話は詳しくなかったりします。研究は主に作品の各論に重点を置き、あくまで作品内での仕掛け等を検証する形での研究でした。
4、最後に
いかがでしたでしょうか。
文学研究と言っても、研究の枠組み自体は他の学部と同じではないかと思います。特に文系の学部の方はかなり近いことをしているのでは、と思います。
なお、研究は作家論でない限り個々の作品解釈に重きを置く傾向がありますので、文アル実装の人物そのものを知りたい場合は、本を買ったり記念館に赴くのが一番早いです。アクティブな方は博物館に来訪するのもよいと思います。
記念館の情報は、一般観覧向けにできている傾向にあるのでなじみやすく、また解説等も加えられているので読みやすいです。訪れた際には是非お土産に記念館の本を買って帰りましょう。
(かつて宮沢賢治記念館に行ってみたことがありましたが、その頃は人も少なく、学芸員のおじいさんが大変丁寧に賢治の作品を解説してくれました。)
番外:
①グーグル書籍検索について
文アルクラスタの強い味方といえば青空文庫ですが、実は本文検索がグーグルの書籍からできたりします。
うまくすればタイトルで見た時にはわからなかった推しの記述が見れるかも…?(笑)
グーグルの検索結果画面で「その他」→「書籍」で検索します。めっちゃ重宝。
②崩し字について
近代文学ではないけど一緒に崩し字も勉強してみたいんだけど、という方向けに崩し字アプリ-KuLA-をご紹介します。(とうらぶ通ってきた方は一時話題になったので知ってるかも)
こちらは京都大学大学院所属の方が完成させた現代人にもなじみやすい崩し字アプリです。
iphone版
https://itunes.apple.com/jp/app/kuzushi-zi-xue-xi-zhi-yuanapurikula/id1076911000?l=en&mt=8android版
https://play.google.com/store/apps/details?id=yuta.hashimoto.kula開発者の方のtwitter
https://twitter.com/yuta1984監修の方
https://twitter.com/iikurayoichi崩し字の学習の仕方は、崩す元となった漢字を覚えて判別できるようになることだそうです。
練習すれば博物館の古典資料なども読めるようになったりするらしいです。
最近はSNSのシステムを利用して「みんなで翻刻」なんてサイトもあるんですね。江戸文学クラスタ大歓喜では…時代すげぇ。
http://honkoku.org/
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